「この村でビールをつくりたい」
その情熱だけで日高村へ移住したけれど、いざ現実の入り口に立った時、私たちは自分たちの考えの甘さを思い知らされた。
土地、資源、コミュニティ。
そこには、Googleマップをどれほど拡大しても見えてこない、『土地のしがらみ』があった。

こんにちは。
高知県日高村の「醸造所の社長」こと、さきちゃんです。
私たちは今、高知でスコティッシュビール醸造所の立ち上げ真っ最中です(2026年2月現在)。
本連載『聞いてや、マッサン!』では、現在(2025年12月末~)再放送中のドラマ『マッサン』のストーリーを出発点に、今まさに進行している私たちの醸造所づくりの裏側を等身大でお届けします。
第6週のテーマは、「田舎の土地探し」。
私たちが今の用地にたどり着くまでの、長く、苦しく、そして温かかった2年間の軌跡を綴ります。
第6週『情けは人のためならず』

(あらすじ)
住吉酒造を退職して2か月。皆から紹介してもらった仕事に文句をつけながら生活費を稼ぐマッサン。そんな折、近所の子供が風邪をひき、エリーはスコットランドに伝わる風邪の特効薬をマーマレードとウイスキーで代用して飲ませ、徹夜で看病する。その風邪をもらって倒れてしまったエリーを、皆が気にかける。
参考:NHKアーカイブス『マッサン』番組内容
病で気分が滅入っているとき、あるいは夢への道が閉ざされそうになっているとき。そんな時に心に染みるのは、いつだって「周りの人の気遣い」です。
私たちも、移住してから今日まで、本当に多くの地元の方々に支えられてきました。
この記事を書いている今、醸造所は着々と完成に向かっていますが、この場所にたどり着くまでの道のりは、一筋縄ではいかないことの連続でした。
運命を感じた、おじいちゃんの生家

ビールづくりの命は、水です。私たちは、自分たちのビールに天然水を使うことにこだわりました。
きれいな地下水、湧き水、あるいは清らかな山水。その恵みがある場所でなければ、醸造所は建てられない。そう決めていました。
ある日、林業を営む友人が、一軒の空き家を教えてくれました。山道を登り詰めた先にあったその家は、まるで物語に出てくるような古民家。家の隣には大きな桜の木。庭には古びた池の跡。山水の取水口もあります。

私たちは数日間その空き家に通い詰め、ようやく持ち主にお会いすることができました。その方は、涙ぐみながら語ってくださいました。
「こんな家やけど、やっぱり思い出があるきね。放っちょけんき、こうして庭の手入れに時々帰って来ゆうけんど、私も子供も市内におるき、これからどうしようか思いよってね。けんど、この家がもしお二人の役に立てるがやったら…」
さらに驚くべき事実が判明します。実家の家族に話すと、なんとそこは私のおじいちゃんの生まれた家だったのです。
思いがけない巡り合わせでした。春になったら咲き誇るであろう桜の景色を想像し、胸が躍る私たち。
でも、最終的にはあきらめざるを得ませんでした。
その家を引き継ぐためには、周辺にある数十筆もの土地をすべて引き取ることが条件だったからです。さらに、相続登記が数代前から止まっており、整理するには膨大な時間が必要でした。
未練はありましたが、私たちの身の丈に合った場所で夢を形にするために、後ろ髪を引かれる思いで、私たちは舵を切る決断をしたのでした。
村外という選択肢と、揺れる心
土地探しが難航し、焦りが募っていた頃、ある方が静かに助言をくれました。
「村でやりたい気持ちはわかる。でも、これは君たちの人生そのもの。妥協するくらいなら、村の外にも目を向けてみるべきだ」
その言葉に背中を押され、私たちは村外の廃校活用を検討し始めました。保育園や小学校の体育館をリノベーションして醸造所にするアイデアは、行政からも歓迎されました。

しかしここでの問題は、合意形成に時間を要したこと、また膨大な改修費用が想定されることでしたが、先輩移住者の協力もあって、前向きに話が進み始めました。
そんな時、事態は急展開を迎えます。
やっと見つけた土地は「灯台下暗し」
それは、今醸造所を建設している場所から歩いて5分のところにあった空き倉庫でした。
湧き水もあるし、国道からもよく見え、大きさも申し分ない。
調査をすると、今は不動産会社の所有になっていることが判明。ネットで調べてみても売りには出ていませんでしたが、メールで問い合わせてみたところ、話を聞いてもらえることになりました。
この頃、私たちが日高村に移住してきて2年が経っていました。土地探しに疲弊しつつも、廃校案が進んでいたことで心に余裕が生まれていました。
そんな折、いつも我が家に野菜をおすそ分けしてくれるおじいちゃんに、ジョンが声をかけられたんです。
「ジョンさん、ビールはまだかえ?」
近所のおばちゃん、保育園の先生、役場の職員。一人、また一人と、飾り気のない、温かな土佐弁が聞こえてきます。
「焦ったらいかんぞね」
「はよう飲ませてよ」
「待ちゆうきね」
そしてジョンが言いました。
やっぱり、日高村でビールをやりたい。もう一回、村内で探したい。
彼がそう言ってくれたとき、私は泣きそうなほど嬉しかった。奔走してくれた方々には申し訳ない思いもありましたが、私たちは廃校案を断り、再び村内での土地探しに全力を注ぐ決意をしました。
結局、その空き倉庫はアスベストの問題で断念することになったのですが、その直後に今回の土地が見つかったのでした。
そこは私が育った地域で、地下水が豊富な場所。最寄りのJR日下駅から歩いて13分とアクセスもいい。
父を経由して地主さんに連絡した次の日には承諾を得ることができ、1ヶ月後には売買契約が完了していました。

最終的にはとんとん拍子に話が進んでやや拍子抜けしましたが、この2年は無駄ではなかったのだと、今は思えます。
ジョンが「この場所でないと意味がない」と思えるくらい、この地域への愛着を育むには、この2年がどうしても必要だったのだと思えるからです。
土地探しの思い出は、マーマレードの味
先日のこと。実家の庭で、母と娘たちと一緒に金柑を収穫しました。つやつやと輝く、黄金色の小さな実。それを見つめながら、私はこの2年間の土地探しを思い出していました。

最初は、金柑の収穫のように簡単だと思っていた。「空き家なんてたくさんある」「どこでもできる」と。
でも蓋を開けてみれば、そこには上水道のない家、県外に散らばった所有者、老朽化した建物ばかり。
田舎の土地探しは、ネットの情報を眺めるだけでは1ミリも進みません。その土地の土を踏み、人と話し、一緒に笑い、時には一緒に悩む。そうやってその土地の人たちと積極的に関わって初めて、土地探しが始まるんです。
その関わりの中で、私たちも「移住者」から「地域の一員」へと成長しているという実感があります。
想像以上に大変だった土地探し。けれど今となっては、それはマーマレードのような、甘苦くも爽やかな思い出。
そのマーマレードがスコットランド発祥と言うから、なんだかまた背中を押された気分です。

最後に(写真:コンクリート打設後の醸造所)
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最高の一杯を目指して。日高村より。







